《MUMEI》
旦那様という人物
《その娘の母親は、旦那様の大切な幼なじみを自殺に追い込んだ》


「…だから、その娘も、憎まなくちゃ、いけない?」

《旦那様の大切な幼なじみには、息子がいたんだ。

その息子は、普通の人生を歩めず、普通の幸せを知らない。

なのに、原因を作った人間の娘は、普通の幸せを得ている。

…お前がその息子なら、娘を憎むだろう?》


(俺が、その、息子なら…)


俺も、その息子と同じで普通の人生を歩んでいないし、エイミーのように普通の幸せな家族はいない。


(でも、俺には)


「俺には、旦那様がいた。だから、俺は幸せだったから、そんな娘の事は気にしない。

それに

旦那様は、俺を犯した弘也の弟を、自分の跡継ぎに指名したお方だ。

誰かの子供だとか、そんな事を気にするような方とは思えない」


俺の言葉に、忍が息を飲むのがわかった。


(忍は俺よりわかっているはずだ)


旦那様は、肩書きにはこだわらず、その人間だけを見れる人だったと。


《…お前に諭されるとは、俺もまだまだだな。もういい。好きにしろ》


忍はそれだけ言うと、電話を切った。

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