《MUMEI》

「先輩の方、風向き悪いですよ。あとそれはバスケットボールじゃないですか?」


「うん……これしか家に無かった。」

理想と現実のギャップ……


「グローブはあるんですね。一応キャッチボール、やってみますか?」

グローブを嵌めてくれる。橋の掛かっている下にコンクリートで固められた道があり、そこでキャッチボールをしてみる。


「グローブ要らないね。」

三回目くらいからグローブを放っていた。
安西、コントロールいい。
両手に真っ直ぐ飛び込んでくる。

サッカーやっていたし、球技だから通じるものがあるのか。


「先輩、危ない!」

ちょっと余所見してたらボールを顔面に喰らっていた。


「あー……ボ、ボール取りに行ってくる!」

生い茂る雑草の中に消えて行く残像を追い掛ける。
俺に当たったときの安西、顔面蒼白だった。
気を遣わせちゃ悪い。

雑草は俺の胸くらいまで伸び切ってて、見当を付けた位置まで来たのに草のニオイしかしない。





      ガサガサ

バスケットボールの橙色が見えた。


「あった!」

ボールに手を掛けると


……人肌だった。

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