《MUMEI》

わたしは彼にニッコリして、それじゃ、と言い残し、足早にさっさと歩きはじめた。無駄な話をしていたら、いつかボロが出そうだ。

とくに、あのパンツ事件のことを彼が覚えていたら……。

考えただけでゾッとする。

歩き出したわたしの背中に、ねぇ!と彼が声をかける。

「もしかして、君、入学式のとき…校門で」




………ばれた!!




わたしは勢いよく振り返り、爽やかに笑って見せた。


「校門?入学式?ぜーんぜん、知りませんよ!人違いじゃないですか?」


早口に言うと、彼はびっくりしたように、え?と声をもらした。

「そう?なんか、見覚えがあるんだけど」


……ほっとけ!!


笑顔を絶やさぬまま、矢継ぎばやに答えた。

「気のせいですよ。それじゃ、急ぐので」

さよなら〜と、わたしは彼を残して、駆け足でその場から立ち去る。あの時のことを言われるのは、もう耐えられない。


青年の視線を感じながら、わたしはそこをあとにした。




………なんてやりにくいの!?





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