《MUMEI》
三の辻
 翌日はひどい雨だった
振りつける水滴が屋根を叩く音で目を覚ました高岡
窓越しに外を眺めながらその薄暗さに溜息をついた
だが、いつまでも止まない雨を目の前に燻っていても仕方がないと学校に行くための準備を始める
「……これ」
何気なく机の上を見れば、そこには高岡の書いた地図が
取って改めて眺めてみれば
一の辻に同じく、二の辻も塗り潰されていた
「……次に行けば、全部分かるのかな」
一人言に呟いて、高岡は居間へと下りていく
降りるなり、昨日の男は一体誰なのかを挨拶より先に聞いてくる父親を適当にかわし
朝食を取る事もせず高岡は早々に家を出た
静かな道を一人、ゆるりと学校へと歩く高岡
穏やかに吹きつけてる風に、今は日常なのだと実感する
「……私、どうすればいいんだろ」
だが日常の中に混じる非日常は確実に高岡の傍らに在って
ソレが常に不安を感じさせる
そんな現状を打破するべく今、高岡が成すべきこと
考えてはみるが、やはり思いつく事はない
「……もう、嫌になっちゃう」
肝心な所で働いてはくれない脳ミソに愚痴を溢しながら
学校までの道を中程まで進んだ時だった
突然、目の前に少年の姿が現れたのは
相も変わらず無表情な顔を前に高岡は動揺してしまい
だが少年は何をするでもなくすぐさま姿を消した
一体何だったのか
首を傾げながら、それでも歩く事を続ける高岡の肩が
背後から叩かれた
驚き、振りかえってみれば
「おはよ、蒼」
普段通りの遠野が立っていた
高岡も普段と同じ様に返事を返すと
遠野と揃って歩き始める
ふと見れば遠野の眼は微かに赤く
昨夜は余り眠れなかった様だった
「眠れ、なかった?」
顔をわざわざ覗き込んで問うてやれば遠野は頷いた
無理もないだろう。あれ程まで現実離れした事柄に遭遇してしまったのだから
「結局、昨日のあれって何だったの?」
遠野のその問い掛けも当然の事で
だがその問いに反してやれるそれを、高岡は持ち合わせてはいない
寧ろ、高岡も問う側に居る訳で
唯々、解らない事ばかりが増していった
「……何とか、しなきゃ」
考えて解らないのであればまずは行動で
高岡は姿勢を正すと、今は取り敢えず学校へ進む脚を速める
「ちょっ、蒼!待ってよ」
先行く高岡の後を遠野は追った
いつも通りの道をいつも通り進みながら、そして二人は辻へと差し掛かった
地図が示す、三の辻
身体が無意識に、警戒するかの様に強張り
進む脚を速めた
何事も無く無事に学校へと到着し、漸く安堵に肩を降ろす
ソレは遠野も同様で、互いに顔を見合わせ教室へ
向かう途中、中庭を通り、そして気が付いた
其処に立つ桜の巨木、その根元に
一の辻・二の辻に在った道祖神と同じものがある事に
高岡はソレへと無意識に近づくと、その前へと膝を折る
「あ、蒼。やめなよ。また何かあったら……」
制止する遠野に構う事もせず
高岡はソレを眺め見る
なぜ、これが此処にあるのか
ソレが不思議でならない
「ね、由紀。さっきの十字路にこれ無かったよね」
思い起こしてみれば、辻にある筈のされが三の辻には見受けられなかった
一体どういう事なのか
黙々と考え始め、だがその最中に始業五分前のチャイムが鳴る
遠野に促され、高岡は取り敢えず教室へと向かう
だがソレを気にするあまり高岡は全くと言っていい程授業に集中する事が出来なかった
それでも午前中の授業を何とかこなし漸くの昼休み
高岡は弁当袋を手に取るなり教室を飛び出していた
向かう場所は中庭
桜の木の幹に身を預け、高岡は弁当を食べ始める
食事に手を動かしながらも、視線は眼の前の石へ
暫く睨みつけていると
「美味そうじゃの」
頭上から声が聞こえた
そちらへと向いてみれば、丸い巨体が顔面に降ってくる
その衝撃に、高岡は弁当を取り落としてしまった
「……何すんのよ!」
降って来たのは五月雨で
土の上へと散らばってしまった弁当の中身を見、眉間に皺を寄せる

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫