《MUMEI》
・・・・
 一人の少女は笑顔でエプロンドレスを着こなし、頼まれた料理を運んでいた。笑顔の中にも、料理を落とすまいと必死に努力しているのが窺えてしまい、ファースは応援してしまいたくなるような優しい気持ちになってしまう。
 もう一人の少女はファースの隣で、仕事に精を出している少女へと、妹を見守る姉のような瞳で見つめ、ひと時も目を離すことはない。
 何とか料理を無事運び終えた少女は客に小さくお辞儀をすると、二人に照れたような笑みを向けて厨房へと帰っていく。少女の華奢な後ろ姿を見つめながら少女は可笑しそうに微笑った。
 「危なっかしくて見てらんないわね」
 「頑張ってるんだからいいじゃねえか」
 「ええ、そうね。頑張ることができたら、必ず最後は報われるわ」

 ――――――。

 (そんなこと、言ってたっけ・・・)
 ファースは昨日のことのように思い出すことができた。
 ほんの少しまえは、この光景をいつでも見る事が出来た。そばで感じる事が出来た。だが、もうそれは叶わない。

 いつからこれほどまで彼女たちを想いだしたのか、自分でもわからない。
 いなくなってはいけない人であることは、わかる。いつからか、あの二人は彼にとって無くてはならない存在になっていた。一緒に過ごしていたときは邪魔に思ったり鬱陶しく思えたことも多々あった、しかし離れたいま、それさえもが良き想い出になっていた。
 変わってしまった自分自身を恐れていた自分を、どこまでもいい加減だった自分を、二人が変えてくれた。二人のためならどんなことでも出来ると思えていた。
 二人のためならどんな事でも出来る。
 
 そう、悪になりきることも苦痛ではない。自分自身がどれほど汚れ、醜くなろうとそれが彼女たちに平和をもたらすのであれば・・・。

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