《MUMEI》

正しくは、手が重なったのだ。






人が居た。
人が……
目深に帽子を被り、体を低くして草根の間からこちらを見ている。

安西……に、伝えれば……

俺はボールを拾うためにしゃがんでいて、手首を掴まれ立ち上がるのは難しい。

なんなんだ怖い


怖いときは、どうする。


なにこれ怖い


怖いときは、そうだ。


叫ぶんだった。


頭の中で冷静に考える俺とパニックになっている俺が混合している。




「……や、やあぁ!」

思ったより出だしが上擦り、末尾は高音になった。



「先輩!」


「あ、あ……、安西、安西!安西!」

急いで安西に向かって走った。
両腕で俺を抱き上げてくれた。


「怖い思いしたんですね、何を見たんです?」


「ア゛、ボールが……」

純粋に怖かった。口が上手く動かない。

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