《MUMEI》
異常の少年、少し"困る"
季紫は学校に近付くにつれて、自分に他の学生からの視線が集まっている事に気がついた。

いつものようなさわらぬ神に祟り無しの視線とは違う。好機の混じった意外な視線、こちらを見ながら噂話をしている者もいる。
不思議に思いながらも季紫は歩いていく。


教室の扉を開け、自分の席を見るとそこには人集りが出来ており、どうやら自分の席で誰かが話をしているようだが人で遮られ誰かはわからない。


「それでね!猫を助けるために季紫は道路に飛び出したんだよ!!」

「誰だってひかれると思った、けれど季紫はひかれなかった。なぜかわかるかい?それはね…」

「「車を飛ばしたんだよ」」


同時に響く言葉は周りの人集りに行き渡り、言葉はさらなる言葉を紡がせる。

「それはないなー」

「いやいや?案外あったりして?」

「なんたってあの季紫だからな」

「猫だぜ?想像できねぇ…」

「なんで?可愛いじゃん?猫。」

「バカだ。バカが居るぞ!」


「ん?あ、季紫だー久しぶり!」


『!!?』

他の生徒達は話に夢中で、後ろに立っていた季紫に気付かなかったらしく、気づいた瞬間にそそくさと移動してしまった。

生徒が居なくなり、目の前には見覚えのある顔が並んでいた。

「快楽と…ミスアだったよな?何でお前等が学校に、制服姿で、当たり前のように談笑してんだ?」

快楽とミスアは一つの椅子に"2人で"座っており快楽の膝にミスアが座るという、見る者に見せつけるようなカップルを演じていた。

しかも制服姿で。

季紫はそんな2人を見て溜め息しか出なくなった。
だが溜め息と共に愚痴は自然と出てくる。

「お前ら、なんで"此処にいる?"」

その質問を聞き、快楽はキョトンとし、やがて笑いながら返してきた。

「ここの生徒だから、かな?」

「2人で一緒にてんこーせー♪」

「答えになってない!だいたいお前ら"こっち"の住人じゃないだろうが!」

そんなもっともな質問に同じ笑いを保ったまま快楽は返した。

「ははは…コセキとかテツヅキとかいうやつのことだろ?簡単さ、まず"コセキ"は」

「魔力使ってちょちょいっとねー♪」

「"テツヅキ"は」

「快楽が洗脳系の力でてんこーせーとして来た、帰国子女の2人ってことにしたのー♪」


一通りの説明を聞き季紫はあきれる行動力に感心すると同時に、
話し方を聞いて、声を真似する鳥の声を聞いたのような奇妙な感覚に捕らわれた。

「じゃあ…お前等は帰らないのか?自分達の…世界に」

「いや普通に帰れないよ?まだなんにもしてないし。」

「私は快楽と一緒に居られるなら地獄でもいーよー?♪」

そんな2人の言葉を聞き、季紫は少しうんざりしながら溜め息を漏らした。
ただその溜め息を吐いた口元が微笑んでいることに季紫は気付かず、また自分が笑う目の前の2人を見て、
また"悪くない"と思うことに、理解が出来なかった。

───それが幸せだと気付くのはまだ先のこと

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