《MUMEI》
真結さん
 ある日、ぼくにお客さんがやってきた。とっても久しぶりのお客さん、ちゃんとおもてなししないと。
 
 ちょっとちいさな女の人と、ちょっとちいさな男の人。ふたりは楽しそうに笑ってる、おもてなしは出来てるみたいだ。

 時間は過ぎていく、見えないけど、きっと温かなオレンジ色。
ふたりは繋がっているんだ。

 笑顔のまま、ふたりは帰っていった。


 それから、そのふたりはぼくのところに来るようになった。いつも楽しそうに話して、いつも楽しそうにじゃれ合う。

 ときどき、ぼくのところで喧嘩をすることもあるけど、それもすぐに仲直り。

 また元通り。

 笑顔が咲き、寄り添って帰っていく。

 ちいさな男の人はちいさな女の人のことを『真結』って呼んでた。

 真結さんは男の人のことを『颯太』って呼んでた。


 ぼくのところに来るときは、必ずふたり一緒だった。真結さんと、颯太さん。

 ぼくはいつしか、ふたりが来るのを楽しみにしていた。たいせつなお客さんだと言うのもあるけど、なにか違う気がする。

 だって、たいせつなお客さんは一休みしていく鳥さんも、おじさん、おばさんも一緒だから。だけど鳥さんたちがぼくの上に止まって一休みしているときや、たまに来るおじさん、おばさんたちのときとは違う気がする。この感じは一体何なんだろう?


 ふたりが来るのは決まってお日さまがお山に顔を隠していっているころで、一日の中でぼくはそのときが一番うれしい。だけど、今日はいつもと様子が違っていた。

 喧嘩することはあったけど、ふたりが一緒に帰らないことは初めてだった。

 颯太さんが帰るとき、真結さんは涙を流していた。
 
 いつも笑顔だったのに―――いつも楽しそうだったのに―――いまはなくなってた。
 
 きれいな顔をしわくちゃにして泣いてる・・・だけどぼくはどうすることもできない。声をかけてあげることも、涙を拭いてあげることも。

 出来ることと言えばひとつ―――ただ見ているだけ・・・


 ぼくは気づいた、ぼくが待っていたのはふたりじゃなくて、真結さんだったことに。

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