《MUMEI》
・・・・
 アランは初対面の人物の言葉を鵜呑みすることは今までなかった。疑って、自分で調べて、それからその人物が信用するに足るか判断していた。だが今回は違っていて、彼女の言葉の一つも理解できはしなかったが、なぜだかすべてが本当のことのように思えた。
 「気が立ってたとはいえ、初対面のあなたにひどく失礼な物言いをしました。すみませんでした」
 彼女に部屋へと導かれ、椅子に座るとすぐに謝罪した。宮廷内の部屋にしてはやや小さく、物も置いておらずがらんとしている。机の上には花が一輪添えられていて、かすかな香り。
 「別に気にしてないわ」
 本当に気にしていなかったようで素っ気なく答える。
 普通ならアランのとっていた態度に腹を立ててもいいと思うが、彼女にとってはどうでもいいことのようだった。自分のとってしまった態度で彼女を不快な気持ちにさせていなかったことがわかり、アランは心の重荷がとれた気がした。
 「自己紹介がまだでした、自分はアラン=ゲーレンです。よろしく」
 名乗り、アランは握手を求める。
 「きみのことは知ってるわ、わざわざ名乗らなくてよかったのに。きみが名乗ったのなら私も答えなくてはいけないわね、ヴィヴィアン=ケルティックよ」
 握手を求めてくる彼に応えると、アランはありがとうと口にしてそのまま話を切り出した。
 「あの、さっきの話はいったい」
 彼女が廊下で話していたことすべての内容が彼はわからなかった。
 「そのままの意味よ、何も知らないきみがいくら頑張っても成果は得られない。だからきみに知識と方法を提供してあげるの。これから話すことはとても重要なことだから、しっかり頭に叩き込みなさい」
 怪しい笑みをつくるとヴィヴィアンは話を進めだした。
 「きみが追っていたのは開眼者、さっきも言った特殊な能力に目覚めた人のことを指す言葉よ。特殊な能力って言うのは開眼者によって異なり様々な能力が存在するわ、あの子の場合は魔眼にカテゴライズされる」
 可笑しそうに笑う。
 「あれは視認した空間のイメージした範囲を切り裂く力であって曖昧なもの。動かない的ならまだしも戦う相手は能力の発動を待ってくれるわけもないし、動くし攻撃もしてくる。
 それにイメージした範囲を切り裂くってことは、行き過ぎたら狙っていない的まで裂くことになる、そうなれば誤って無関係の人や、仲間を殺しかねない。使い勝手の悪さなら最高クラス。
 ま、あの子がただの殺戮を楽しむような子だったら話は別だけど」
 縁起でもないことを面白そうに話す彼女の台詞にアランは驚いた。
 「それじゃあ彼をこのまま放っておけば街が危険に晒されるということですか。
 自分としたことが、どうして彼を逃がしてしまったんだ、これからでもまだ間に合うかもしれない、これから街に出て彼を捜します」
 椅子を倒さんばかりに勢いよく立ちあがるアランにヴィヴィアンはため息をつき、アランを止めた。
 「冗談よ、落ち着いて。もしあの子が殺しを楽しむような人間だったらすでに街の人々に手をかけてる。
 きみに冗談を言わないほうがいいわね」
 「・・・・」

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