《MUMEI》

安西は次の日、眼帯でやってきた。
瞼を縫ったらしい。
通り魔がいるということで警察にも連絡が入り大事だった。

安西が円滑に進めてくれて俺は相槌しかうってないけれど。
流石にぐったりして、帰る頃にはご飯も口にしないで寝てしまった程だ。

あの時キャッチボールなんて誘わなければ安西だって怪我しなかっただろう、なにが助けるだ。
なんの力にもなれてないじゃないか。

自分の非力さが悔しい。


「先輩、馬鹿なこと考えてませんか?……例えば自分が近付いたら迷惑がかかるとか。」

距離を置いていればそりゃあ分かるか。


「痛い?瞼……」


「見ます?近付かなきゃ見えませんよ?」

恐る恐る寄って行く。安西たら両手を広げて、俺を犬か猫かと勘違いしてるんじゃなかろうか……


「縫ったのは何針?」


「三針です。
先輩の瞼に傷付かなかったから良かった。」

わ、わあ……擽ったい言葉だな。


「三針……、痛いね。」


「二針も痛いですよ。」


「捻た言い方するね。弟達にもそういう口きいたでしょう。」

思い当たる節があるようで考え込んだ。


「嫌われちゃうよ?」


「もう嫌われてます。」


「素直じゃないな、俺に好きって言う安西はあんなに真っ直ぐなのに。あの、安西素敵だよ。」


「先輩は素直過ぎますね。」


「ありがとうよ。」

厭味が入ったな。
感謝の言葉でもくれてやる。


「あはは……抱きしめてみていいですか?」










「駄目だろ。」

神部が目の前で靴を揃えて履き替えてゆく……そもそも、玄関でする会話じゃなかった。

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