《MUMEI》
謎多き殺人
「それ‥で、その死体どんな風になってたの…?」

加奈子は美雪の話に入り込んでいた。
美雪はこういう話をするのが得意なのか、いつも異様に上手いのだ。

「ねぇ、どうなってたの!?」
加奈子は美雪に迫りながら、話の続きを急かす。


十分に貯めた後、美雪は声のトーンを落とし気味に言った。

「その死体の解剖結果なんだけど、体内にあるはずの血液が一滴もなかったんだって。」
「そんな…じゃあ‥」

「そう、その女性が見たって言う死体の姿は、まるでミイラの様だったんだって。」

美雪はジッと加奈子の目を見据えて言う。

加奈子はそれに居心地の悪さを感じた。
きっと得体の知れない恐怖心からだろう。

そんな恐怖心と同時に、ある一つの疑問も浮かび上がってきた。

「でも待って。その話と、吸血鬼が何の関係があるの?」
「それなんだけどね…」

美雪は腕を上げると、スッとその手を加奈子の左首筋にあてた。

冷え症なのか、その手はひんやりとしていた。

「ここにね、あったんだって…」
「何…が‥?」
「牙で噛まれたような、二つの小さな傷跡。」

ニヤリと笑う美雪の顔が恐怖に追い打ちを掛けた。

「やだちょっと!辞めてよ!!」

首筋に当てられていた美雪の手を、思いきり払い除けた。

「アハハッ!ゴメンゴメン!案外怖がりじゃん〜。加奈子も普通の女の子だったね。」

今までどんな怖い話を聞かされても動じなかった加奈子が、ここまで怖がるとは。
美雪はそれが面白かったらしい。クスクス笑い出した。

「笑うなぁ!!」

恥ずかしいやら、腹が立つやらで、加奈子は大声を出した。

「ゴメンって。ほら、授業始まるよ!」

前を見たらすでに教壇に人が立っていた。



確かに心霊現象なんかは怖くはなかったが、今回はちょっと訳が違う。
吸血鬼が怖いとか、それを信じる訳ではないが、これは殺人だ。

しかも動機、犯人、そして何より殺し方が謎過ぎる。

謎が多いこの事件。

それが加奈子の住むアパート近くで起こっていた事が何よりも怖かった。

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