《MUMEI》

「さ、母さん、行こう。」

母を連れて祭を見物すると松子には謂ってある。
勿論、私は首塚斬士郎の黒い着物を着て途中、弟と入れ代わる。
弟と私は村人と顔を合わせるのは初めてだから同一視されるだろう。
我が家は村人と隔離された棲まいだから私達の存在を知りうる松子にだけ母さんを俺が連れ出して、弟は旅行に行っていると思わせる必要が有る。
勿論、使用人に頼んで松子には旅行先の絵葉書が届くようにした。
天気に応じて、数枚書いて或る。

雑踏の中で母を連れ、恰も恋人同士のように寄り添う。


「嗚呼、猫だわ。」

母が愉しそうに指した先には猫が居た……、逃がした筈の猫が。
不測の事態に計画が欠損してゆくようだ。

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