《MUMEI》 Episode1-5駅のホームに立ちながらも雅也の頭の中は朝の雄斗のことでいっぱいだった。 確かにかっこいいことやモテることに関しては否定はしない。ただモテるということが不安で仕方なかった。どれだけ頑張ったとしても自分は男で、世間から認められることのない存在。そんな自分がこれからも雄斗の側にいられるのか……。雄斗が女の子に告白されたら……。常に頭を過ぎる不安。これが消えることはないのだ。頭の中をぐるぐる渦巻く感情にため息をつきながら雅也は到着した電車に乗り込んだ。 電車はちょうど学生の帰宅ラッシュと重なり満員だった。 何時もならこの時間は部活か、雄斗の部活終了を待っているため乗ることはない。テスト週間などで乗ることがあっても、いつも雄斗が朝のように庇ってくれた。しかし今日はそれがない。それがこんなに辛いということを雅也は痛感した。しかし考えても気は滅入る一方で。仕方なくイヤホンを耳に入れ音楽を聴くことにした。 しばらくすると駅について大量の客が乗り込んできた。雅也は何とか押し潰されないように端に寄った。ドアの角にいき一息を着いたとき…急に誰かの手が尻を触ったような感じがした。しかし混雑する車内。たまたまだろうと気にも止めずにいた。だがそれは段々エスカレートしどんどん下半身を侵食し始めた。最初は尻だけだったのが前に周り雅也自身を棚で回し始めたのだ。止めさせようと後ろを向こうとした時、耳に熱い息がかかった。 「可愛いね。感じてるんだ?」 雅也の耳に見知らぬ男の声が聞こえた。 痴漢だ…とわかりながらも雅也は恐怖に身体がすくんでしまい声を出すことが出来なかった。 「気持ち良くしてあげるから。」 時折熱い息を吐き出す雅也に男は熱を含んだ声で呟いた。 (いやだ…いやっ……怖い…) 心の叫びが声になる訳でもなく雅也は小さく震えながら必死に耐えていた。 「おい…」 不意に男の手がなくなり、聞き覚えのある声が降ってきた。 雅也が恐る恐る顔を上げるとそこには見覚えのある姿があった。 「あんたなにしてんの?」 前へ |次へ |
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