《MUMEI》

「……国雄って海でもサカっちゃうんだ?」

潮のかほりがする国雄にどきどきはするけれど。


「うっさい、黙って俺という海に溺れてなさい。」


「俺という海て……!」

斬新な表現だ、けれど溺れてみたい気もする。
背中越しに国雄の吐息を聞いて、大きい手と肩とが擦れてゆくのを愉しむ。
シャワーの掛かる金具を支えにして骨盤を国雄に差し出す。


「生まれる前は皆水中だからね。たゆたうようにしてやろうか?」


「新技……!?」

余計な思考を廃除するキス。
国雄のキスは塩分のせいか余計に甘い。
ほら、西瓜に食塩の原理。


「光が俺以外の男の事を考えるのか苛立たしい。俺の占める割合を取られた。」

言葉と共に温水が時折顎から俺へ滴り落ちる。
熱っぽい指が纏わり付くシャツの隙間から縫うように侵入した。
臍をゆるゆると掻く。


「あ……それ気持ちい」


「俺の慈愛を臍で表してみました。」

新しい試みだ。


「国雄のいびつな優しさに救われる。」

欠けた気持ちを愛して満たしてくれる。


「俺が愛してやるから、他の男の事なんか考えるな」

父親だったものは、俺と母を捨てたと言った。
二人の子供を女手一つで懸命に育てる最愛の人は足に障害があって治療費が必要だったという。
愛するが故に金が要り、出世には偽りの愛が必要だった。
偽りの愛が俺だと言った。


恋人の国雄が俺に言った。


「俺から捨てていいの?」


「そうだ、光は俺に全部ねだればいい、光が欲したらなんでもやるよ。」

なんでも……
そういえば、恋とも愛ともつかない国雄のくれた温かさは俺の父に対する憤りを溶かした。


「……今は国雄の愛撫が欲しい。」

俺もいつか、国雄に恩返ししよう、愛に溺れ死んでしまいそうだから。

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