《MUMEI》

 ‥暫く、沈黙が流れた。




 菜畑君は、フェンスから少し身を乗り出して下を見た。 その視線の先には、桜がある。





「‥‥‥一つだけ‥覚えている事がある」

「ぇ‥」




 一つだけ‥覚えている事‥?




「君が話していた丘にある桜‥‥‥あれの夢を見た」

「‥夢‥?」




 訊き返した私の質問には答えずに、菜畑君は続ける。




「その桜の下に‥誰かが立っていた」

「──それ‥」




 ‥私‥。

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