《MUMEI》
一瞥される
「おーちゃん……これはその、あの……あ、帰らないとなあ!」

安西は猛ダッシュして外に出た。
俺を一人神部の隣に置いていかないで……!


「淫乱……」

神部がぽつりと、俺を罵った。
淫乱て単語、そうは使わない、まさか俺に使われようとは!

傷付いた。


「でも、安西からだよ。安西が……好きって言ってくれたんだ。」

安西を言い訳にしているみたい。


「じゃあ俺が好きって言ったら付き合うとか?それを淫乱って言うんだ!」

神部の言い分には返しにくい、否定しててもどこかで肯定してしまうから。


「ちゃんと安西のこと考えてるよ、神部こそ安西の友達なら安西のこともっと気にしてやれよ。」


「友達じゃない、同類だっただけだ。」

神部が自身にも言い聞かせるように呟く。


「神部のこと、安西はもっと理解してたし認めてくれていたよ。同類ってことはそれだけ安西に共感したんだよね?それって友達じゃないの。」


「じゃあ、義兄さんとアンタは?」


「七生は、そう……トモダチだよ。」

違和感を覚える。


「いちいち掻き毟られる気がする。不快だ……帰る。」


「待ってよ神部!かっ……」

神部を追い掛けながら躓いた。
神部が差し延べてくれた手を思わず取った。


「……そうやって一生誰かに縋って生きてくんだ。みっともない。安西も依存しないと生きれないような弱い奴だからね、前に戻りたかったんだ。」


「俺はいくらでも罵倒していいけど、安西は止めてよ。神部もいい気しないだろう?」

いつも二人仲良かったじゃないか。


「そう俺が悪だ、いっつもそうさ。」


「神部?」


「勉強も運動も人並みだ!北条には相応しくない、父さんはもっと出来た……母さんに似てたんだから、平凡なんだ仕方ないじゃないか!」


「神部……」

どんなに怒っていても神部は静かに毒づくばかりだったのに、今は肩で息をして険しい表情である。

そしてすぐ、はっとしたように口元を押さえた。

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