《MUMEI》

「‥‥‥京都‥?」

「うん。一緒に‥行って欲しいんだ」

「何故京都なんかに‥」

「記憶‥」

「記憶‥?」

「菜畑君の記憶を、戻せるかも知れないから‥」

「今も残っているとは限らないだろう‥?」

「うん、そうだよね‥。でも、残ってないとも限らない」

「──その桜を見て、僕は記憶を思い出すのか‥?」

「分からないけど‥何もしないでいるよりはいいかなって」




 そう言った私の隣りで、菜畑君は微かに笑った。




「──成程、やはり君は面白いな」

「‥来て‥くれる? 一緒に‥」

「行く義理は無い。‥けれど‥この蟠りをどうにかしたいとは思う」

「じゃあ‥」

「行く事にするよ。少々予定が詰まるけれどね」

「ありがとう‥」

「誤解するな、君の為じゃない。──僕自身の為だ」




 そう言って菜畑君は、フェンスから離れた。

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