《MUMEI》

重篤な情況ではあるが今すぐ何かがある訳ではない。







後は本人の生きる意思だけ。






ICUには基本的に身内が一人だけしかいられない。





俺と親父は兄貴をお袋に任せてICUを出て、






霊安室へと向かった。















「綺麗な顔してるだろ…、何処にも傷一つないんだ」



俺は顔にかかった布を両手で持ちながら、死んだ仁の顔を見つめた。


…今にも起き上がりそうな、兄貴とは違う安らかな表情。









こんな幸せそうな仁を、俺は見た事があっただろうか?















「親父…、仁と少し二人きりにしてほしい。



二人で話がしたいんだ…」






「……わかった、

………、








惇………、





……、いや、




ICUの階の家族室にいるから…」






親父が静かに出て行く。









パタリと閉まる扉。











俺は布を握りしめ、


しかし布は床に落ちて








「…仁、聞いてるか?俺はおまえを……許したくない…
全部…全部!!」




ガツンッ!!!




「テメーのせいで!テメーのせいで兄貴が!俺が!どんだけ辛い目にあったか分かってんのかコラ!!
テメーのせいで!テメーのせいでッ………」



ドサッ……








「兄貴助けねーと一生許さねーぞこら…

俺にナイフ充てたの兄貴のせいにしやがって……

人がおかしくなってんの利用して…



嘘ばっかりだ、嘘ばっかりつかれて何が本当の仁なのかちっともわかんね、







でもなあ、兄貴が好きなんだろ?


それだけは本当なんだろ?






好きだから守ったんだろ?



それだけは真実なんだろ?







助けてやれよ!!
最後位兄貴に優しくしてやれよ!!…………ッ……ふ…










ァアアッ………」






思いきり壁を殴った拳が酷く脈打つ。





それに合わせるかのように、俺の目から涙がドクドクと零れ落ちる。






−−−−全部、おもいだした……




…いや



現実を




認めた


全部……




全部








心の中の重い蓋が外れた。







今まで逃げてきた現実……。




しかし俺は、






それを真っすぐに受け入れた。




俺は仁に布をかけて、


霊安室を出た。

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