《MUMEI》 「峯君、昨日のことは赦してやろう。」 先生は御立腹だった。 「……昨日?」 今日、私は逢いに来た。 「貶た。」 「私が……ですか?」 私を映す先生の瞳には真実だけだ。 「信用していないのか」 「影の病かもしれません。」 「自分の姿形同様の人間を見たら死んでしまう病か、親子三代に渡って同じ病だったという?」 江戸の文献に記録されていたものを先生は記憶していた。 「外国では、ダブル、ドツペルゲンガ、なんて謂います。自身に会うと死んでしまうんです。」 私には何人の影が憑いて回るのだろう。 奪われないように朦朧とする、綺麗な私の宝石を小箱に仕舞いに行こうか。 「……私は此の玉流しに参加するんだ。君と居る暇は無いね。」 「私が先約ですよ。」 「厭だな、君が謂い出したんだろう。“影”との誘いが或るのさ。君とよりはきっと面白い水上祭だ。」 目に血が上っているのではなかかろうか、瞼の熱を冷まそうと何度か瞬いた。 前へ |次へ |
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