《MUMEI》
ルナはマゼンタの油絵の具を宝石でも見つけだしたように丁重に肘の間から取り上げた。
「え、え、
どういう風の吹き回し?」
「 一応、謝礼よ。
私、てっきり狙ってやったのかと思ったのに!
そんな言い方しか出来ないなら返して」
「ヤダ、
欲しい、超どーも」
「ありがとうございます!」なづきは言葉が足りない人間へ当たらない程度に距離を測って空を蹴った。
「いいの?貰って?」
ルナは掌を自分の目線に合わせ、マゼンタのチューブを眺めた。
まだ少ししか使われていない、銀色に多角面に光るチューブ。
ここまでいい反応されては今更返せなんて言いにくい。
「ただじゃないからね、
一応さっきの佳代のときのことが含まれてるから
……特例なんだから。
いつも何か貰えるなんて思わないで」
ルナは小さく吹き出した。
「俺もそうだけどマゼンタも大概マナー下手だね。
ありがとう、
なんて面と向かって言えないよね?」
ルナがなづきと背中を付き合わせる。
「……言える」
「俺はこっちのが幾分かは楽だな。
俺に合わせて、一緒に言ってよ。」
「なんでよ」
「言えないよね」
「言える」
「うっそだ。」
「言う、言えばいーんでしょ!」
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