《MUMEI》
お迎え
「よぅ!加奈子!!」

少し息を切らしながら、修二はニッコリと笑う。

「えっと…君は確か…」
「美雪です!」
「そうそう、美雪ちゃんだ!」

付き合い出した頃だったか、以前加奈子は『彼氏』だと言って美雪に一度紹介した事があった。

「シュウちゃんどうしたの?こんな所で。」
「お前、今日バイト休みだって聞いてさ、待ってたんだよ。」

加奈子が働いているコンビニは、アパートに帰る道の途中にあり、それ故いつもこの前を通っていたのだ。

「お迎えに参りました、お姫様。」

修二は深々とお辞儀をして、紳士振った。

「何それ〜!」

加奈子は可笑しくてクスクス笑っていると、それを見ていた美雪がそっと耳打ちしてきた。

『きっと心配なのよ。あんな事件があったから…』


そっか。
この近くだったもんね…


「ありがと。」
加奈子は笑うのを辞めると、素直に礼を言った。


「じゃ、加奈子。私先帰るわ!」

気を遣った美雪はそう言うと、修二にも軽く会釈をしてその場から立ち去ってしまった。

「なんか、気ぃ遣わせちゃったかな?」

美雪に手を振りながら、修二がポツリと言う。

「そんな事ないよ。」

気を遣わせたのは明らかだが、別に失礼には値しない。

「帰ろ?」

加奈子は修二の腕にピッタリとくっついて、アパートへと歩きだした。

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