《MUMEI》 奇跡が起きた!静果はアパートに帰宅。きょうも疲れた。 シャワーを浴びてバスタオル一枚のままベッドにダイブ! 「ふう」 しばらく寝ていたいと思ったが、気合いを入れて起き上がった。 静果はベッドに腰を掛けた状態でケータイを開く。 「ん?」 ブログにメッセージが届いている。コメントではなくメッセージは珍しい。 静果はメッセージを開けて読んだ。 『初めまして。私、動画制作会社ワイルドSの社長、火竜久一郎と申します。 ひりゅうです。かりゅうと読んだらドラゴンスープレックスです』 「何これ?」静果は顔をしかめた。 『冗談はさておき、あなたのケータイ小説を読みました。わが社専属の脚本家になりませんか?』 いきなりストレートに来た。静果は目を見開いた。 「詐欺?」 『ぜひ一度、お会いしたいと思います。そこでゆっくり条件などを語り合いたいと思います』 静果は警戒心が強く湧いてきた。 「怪しいよ絶対」 世の中においしい話は一つも転がっていないと、祖父からよく聞かされた。静果はそのことを思い出し、疑いの目で文を読み進めた。 『突然のメール。大変に失礼かと思いましたが、静果さんの書く作品は斬新でスリリングで、映像的なので、ぜひ動画にしたいと考えました』 静果は胸の鼓動が激しく高鳴った。 「静果?」 名前で呼んでいる。しかし最近の詐欺や悪徳商法は巧妙だ。騙されてはいけない。 『ご心配ならば、静果さんの指定する日時、場所にこちらからお伺いいたします。ご家族やご友人とご一緒でも構いません』 静果はベッドの上に正座した。詐欺ではないかもしれない。 大変なことになった。作品を読んで認めてくれたのだ。 奇跡が起きた! 『静果さんからのご連絡を心よりお待ちしています。わが社は、動画にもっとストーリー性を入れたいと思っております。 静果さんの力を貸してください。よろしくお願い致します』 「嘘…」静果はニンマリした。 バスタオル一枚。電話だから裸のままでもいいのだが、気持ちは大事だ。 静果はとりあえずパジャマを着た。 深呼吸。善は急げだ。彼女は勇気を出してワイルドSの電話番号にかけた。 胸の鼓動はさらに高まる。 『はい、ワイルドSです』 渋い男の声。 「あの、ブログにいただいたメッセージを読んだんですけど」 『メッセージ…。もしかして、静果さんですか?』 「はい」 『ホントに来た、ホントに来たよ塚田!』 何か電話口で大騒ぎしている。静果は不安になってきた。 (やっぱり詐欺?) 『すいません。私、ワイルドS社長の火竜です、初めまして』 「あ、はじめまして。急にメッセージが届いていて、びっくりしたんですけど」 声からして二十歳の女性というのは嘘ではないようだ。火竜は燃えた。 『突然驚かしてすいません。わが社専属の脚本家が欲しいと、ネットであちこち探していたんですが、静果さんの小説の作風がですね、私の求めていたものとピッタシなんですよ』 強い声。語尾がハッキリしていて、特徴のある喋り方。 正直、静果の好みの声だった。カッコイイ声。顔が見たいと思った。 「あの、一度、お会いして、お話を聞いてから決めてもいいですか?」 『もちろんです!』 やった。火竜は慎重になった。 『では、静果さんの指定する日時と場所を教えてください』 静果は間髪入れずに即答した。 「明日の夜なら大丈夫です」 明日。火竜は静果のやる気を感じた。彼女も夢を急いでいる。火竜は静果のブログを読んで、プロの作家を目指していることは掴んでいる。 『明日、場所は?』 「そちらで決めてください。マンションの一室でなければ」 『ハハハ。じゃあ、倉庫の地下室にしましょう』 「アハハ」 まさか笑って会話ができるとは、お互いに思わなかった。 二人はファミリーレストランで会うことに決めた。 火竜は自分のケータイの電話番号だけを教えた。静果は火竜を信用した。 前へ |次へ |
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