《MUMEI》
「ねぇ、どうしたの!?」
歩雪は無言で今宵の腕を引き、屋上に通じる階段を上った。
うーん・・・。私なんかしたかなぁ・・・。
歩雪は屋上のドアを開けると、今宵を奥のベンチに座らせた。
「ねぇ、どうしたの?」
今宵は歩雪に尋ねるが、無言だけが返ってくる。
「歩雪くんってば!!どうしたの?」
今宵は歩雪の体をゆさゆさと揺らした。
私何かしたなら言って欲しいのに!!
「・・・・・・なよ」
「何?聞こえないよ!!」
今宵は歩雪の声に耳を欹てる。
「だから。オレと食べるってずっと約束してたんだから、待ってなよ」
歩雪は顔に僅かだが朱を浮かべ、そっぽを向いた。
うぅ・・・。私まで赤くなっちゃうよ!!
今宵も歩雪からうつったように、赤く染まった。
「でも・・・」
今宵から赤みがスッと抜けた。
でも、あの女の子達のことはいいの?
あの女の子達も必死なのに・・・。
「こー、何か変なこと考えてるでしょ」
「え?」
「オレは別にあいつらには興味ない。こーだけで精一杯だし」
「な、何それ!!」
フッと笑う歩雪に、今宵は思いっきり背中を叩いた。
「いてっ。馬鹿力」
「そんなことないし!!失礼な!!」
顔をしかめて背中を擦る歩雪を見て、今宵は思いっきり笑った。
でもあの女の子達には悪いけど、歩雪くんが興味ないって言った時、ほっとしちゃってた自分がいた。
女の子達のことを心配していたはずなのに・・・。
私は、他の人と一緒にいて欲しくないぐらい、歩雪くんのことが好きなんだ。
「ちょっといい?」
―この1言が小さな嵐を引き起こす前触れだった。
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