《MUMEI》

私はそっと振り返った。その瞬間、思わず気絶しそうになる。血の気がサッと引いた。

「田中が何だって?」

私の顔の横には徳山がいた。丁度席が私の後ろで、サッカーをやっているせいか妙にモテる奴。
とにかくそんな奴がいたら…背筋がぞくぞくするに決まってる。

「ちょー…どいてー。」

私は徳山の体を指先でなんとか離すと、指をウェットティシュで拭いた。

「おい、扱いひどくね?」

飽きもせず近づいてくる徳山から逃げるため、優子の方にさっと寄った。
さっきまで黙っていた優子がぱっと口を開く。

「まぁー許してあげてよ。この子純粋なの。」

そう言って軽くウィンクをすると私を元の席に押し戻した。
嫌がらせだ、これは。

「なわけないし。とにかく、徳山もーあっち行って。」

徳山は「なんだよー」と言いながら、女子軍団に連行されて行った。というよりは、ファンに囲まれる形で教室の隅に追いやられた。

私はふーっとため息をつく。危く蕁麻疹が出るところだった………というのは大袈裟だけど。

「なーんで嫌がるかな。」

優子は私の前の席に腰を下ろすと、足を組んだ。
さすがは優子。色気がムンムンと漂っていた。

「だって。もうほんと倒れそうだったし。」

「でも、昨日知らない輩に触られてたけど平気だったでしょ?」

「あれは気を張ってたけど、今日は不意打ちだったから。」

「ふーん。」

優子がじっと私の方を見てくる。茶色がかった目がきれいだった。

「ルックスは良いし、スポーツできるし、頭もなかなかだし。悪い物件じゃないけどね。」

「は?」

私は思いっきり顔をしかめた。

「だってそうでしょ。絶対に徳山、怜のこと好きだもん。」

「いや、ありえないでしょ。」

私は失笑した。たとえ徳山が私を好きでも、付き合うとかになったら鬱になってしまうだろうし…。

「えー?なことないって。てか、気づいてないと思うけど、怜ってスタイル良いし、顔可愛いんだからモテて当然なんだよ?あとはその男嫌いが直ればねぇ……。」

そんなこと言われても、嫌いなものは嫌いだし。そもそも、受験で落ちなければ女子校に行けたのに…。

その時、優子の携帯が鳴った。

「キター。」

大声を上げてガッツポーズをする優子。

時々分からないんだよね、この人。

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