《MUMEI》
波坂秋葉
「ちょっといい?」

この声に今宵が振り向くと、朝、歩雪に話しかけていた女の子が腕を組んで立っていた。

「うん?いいけど・・・」

この子、なんて言うんだっけ?

顔にインパクトがありすぎて、分かんないんだよねぇ〜。

あ、インパクトって『キレイ』って意味だけど。

「あたし、【波坂秋葉(なみざかあきは)】。あんたに言いたいことがあって来たの」

「私に?」

なんかしたかなぁ、秋葉ちゃんに。

ていうか話すのこれが初めてなんだけど。

「じゃあ、オレ行くから」

「歩雪くん!!ご飯は?」

ベンチから立ち上がった歩雪に、今宵は尋ねた。

「もう食べた。ご馳走様」

「早っ!!」

いつのまに・・・?

「じゃ、遅くなんないようにしなよ」

歩雪はあくびをしながら、ドアを開けて階段を下りていった。

私もできれば戻りたいなぁ。

何かイヤな予感が・・・。

今宵が歩雪の後姿を見送っていると、秋葉が口を開いた。

「雪村今宵!!なんであんなに歩雪くんと話せてるのよ!?」

「そんなフルネームで呼ばなくても・・・」

決闘じゃあるまいし。

っていうか、こんな緊迫したムードにこのセリフ?

「じゃあ雪村。なんでなのよ?」

「幼馴染だから?」

「聞かれても分かんないわよ!!ただの幼馴染じゃないんでしょ?」

「え?それってどういう・・・」

「だから、好きなんでしょ?歩雪くんのこと!!」

「でぇぇっ!?」

な、なんで分かったのかな・・・。

私ってそんなに分かりやすい?

「で、どうなのよ?」

秋葉が目を逸らさずに、今宵を見つめる。

こんな目で見られたら、秋葉ちゃんには言わないといけない気がする。

私の気持ちを・・・。

「私、小さい頃からずっと歩雪くんが好きだったの。こんなに思える人はいないってぐらい」

「やっぱりね。あたし、フェアじゃないのは好きじゃないの。だから、あんたには言っておくわ」

「何を・・・?」

今宵は秋葉の言葉を、息を飲んで待った。

聞きたい。

けど、聞きたくない・・・。

「あたし、歩雪くんを一目見たときから気になってるみたいなの。だから、これからはこの気持ちが本物になるまで、本気でいくつもり」

やっぱり・・・。

こんなキレイな子だったら、歩雪くんも興味を持っちゃうかもしれない。

でも、私は・・・。

今宵は俯きかけていた顔を上げた。

「私も、この気持ちがもっと固まるように頑張ってみる」

この言葉を聞いて、秋葉は笑みを浮かべた。

「そう言うと思ったから、あんたに話したの。話してよかったわ」

「うん。私も秋葉ちゃんに自分の気持ちをしゃべったら、もっと気持ちが強くなったよ」

秋葉ちゃんの真っ直ぐさに、私も真っ直ぐな気持ちをぶつけることが出来たんだ。

自分の気持ちを隠してるままだとダメだよね・・・。

秋葉はさっきと同じ笑みを浮かべた。

「あたし、『幼馴染』に負けるつもりないから」

秋葉は『宣戦布告』をすると、じゃ、と手を上げて回れ右をして、ドアを開けて階段を下りていった。

「な、何でこんなことに?」

今宵は、ヘタッとベンチに座り込んだ。

さっきのイヤな予感的中・・・。

これからどうなるんだろう・・・。

―キーンコーンカーンコーン♪

今宵の心とは裏腹に、気が抜けるような音が響き渡る。

な、なんだチャイムか・・・。

「って!!授業始まる!!」

今宵はベンチから勢いよく立ち上がり、教室へ走って行った。

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