《MUMEI》

気づいた時には、もうカラオケの中にいた。
カラオケに付き合って欲しい、というのはあながち嘘ではないらしかった。

もうすでにそれぞれがターゲットを決めていて、やたらと攻めていた。

私は優子が頼んでくれたと思われるファンタを飲んだ。
すると右の方から悲鳴が上がった。急いで右を向くと、男がいた。
私は2・3センチ左にずれる。

「俺のファンタが…。」

相当顔を青ざめて、私の手元にあるファンタを眺めていた。
そして、私も当然のごとく青ざめる。


今この瞬間、間接キスをしてしまった。


「すみません。」

と一応言っておいた。
私は急いでトイレに駆け込もうとした。
だが、その男が邪魔で通れない。

「あの…どけてくれませんか?」

「いや、そっちこそそんなに近づくな。俺との間は40センチはあけろ。」

その自己中な発言に腹を立てる。

「あのねー、私は男が嫌いなわけ。でも、トイレに行きたいの。だから、どーしてもここを通らなければいけないの。あなたが私との距離を30センチとりながらどけてくれても良いじゃない。」

男はしかめっ面だった顔から眉を吊り上げていきり立つ。

「はー?んなことかよ。だったら最初からそう言えよ。俺だって女が好きじゃねーんだから、ファンタを飲まれた上にいきなり近づいてこられたんじゃたまったもんじゃねーんだよ。」

怒りが最頂点に達し、止めることができなくなる。

「そっちこそ、私の目の前にファンタおいてる方が悪いんでしょ。」

「うるせーよ、だまれ。だいだいおまえがな………………」

急に頭の上に冷たいものがかかった。
見上げると、優子がいた。そして、あのむかつく男も濡れていて、かけたのは…徳山だった。
どうやら、私の学校同士の合コンだったらしい。制服なんてちっとも見ていなかった。

「もー、あんたたち二人いい加減にしなさいよ。そこでじっくり反省してなさい。」

そう言うと優子はターゲットの方に戻っていった。

何がかけられたか匂いで確認する。
何も匂わず、べたつかないところから水だと分かった。
隣の男をちらっと確認すると、さっきまで入っていたファンタが消えていた。
私はファンタ男にばれないように笑った。

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