《MUMEI》

3時間にわたるカラオケが終わった後、仲良くなった者同士がくっついて帰る。
もちろん私はあまり者なわけで…男子のあまり者と言ったらあのファンタ男だった。
一応流れ的に、お互いが歩幅を合わせるものの、その距離は1・2メートル開いている。

ファンタ男は、男嫌いの私が言うのも何だが、イケメンの分類に入ると思う。
真っ黒な剛毛そうな髪を盛っていて、「こんな髪では女子が勝手に寄ってくるだろうに…」と思いながらも、「こいつもしかしてホモ?」という考えも浮かんで、何だか楽しくなってくる。

知らず知らずのうちに笑い声が漏れていたのだろう。

「何笑ってんだよ。」

と、ファンタ男が怪訝そうに話しかけてくる。

「いや、別に。」

そう言いながらも、私は耐え切れなくてまた吹き出す。

そんな様子を眉をしかめて見ていたファンタ男が、私の顔を見つめる。


2メートルは確実に離れてるところからだけどね。


「おまえさー、男嫌いだっ言ってただろ。おまえ、電車乗るのとか好き?」

私はその質問の答えを一気に捲くし立てた。

「嫌い。だいっきらい。だって電車、男がうじゃうじゃいるじゃん。それがまじで嫌っつーか…最近は女性専用車両ができて少しは安心できるものの、やっぱり男からは避けられないわけ。有り得ない。どの場所もそうよ。女だけにならないかね。ほんと男って無理。あ、別に私が同性愛を好んでるっていうわけじゃなくって…なんかとにかく必要最低限以上の距離の縮小は嫌なの。だから………」

急に男が吹き出した。私は、何がおかしかったのか分からず、きょとんとする。

「おまえさー、確かに俺も女嫌いだからそういう意見持ってるけど、だからって一気に言いすぎ。しかもめっちゃ大声だし。」

そう言われて前を見ると、他の3組が私の方を見ていた。
顔がどんどん赤くなる。

「おい、せっかく同じ学校なんだからさー、普段の不満ぶつけ合わね?俺の周りじゃ、この気持ちを理解してくれる奴がいなくってさー。」

そう言って、ファンタ男は携帯を取り出した。

「いいね。うん、時々ぶつけ合おう。その方がお互い日頃の憂さ晴らしができるし。」

私も携帯を取り出し、メアドを交換する。
赤外線通信だから少し近づかなければならなくて、お互い顔が引きつったが。


でも、嬉しかった。初めて同じ気持ちを分かち合える人ができた。
こういう異性の人のことを男友達って言うんだろうけど、私的には女友達ができた気分だった。

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