《MUMEI》 ◇◇◇ 『‥ずっとそこにいたのか』 『?』 振り向くと、そこには若君の姿があった。 『──黄羽様っ』 『‥聞いたのか』 『‥‥‥はい‥』 『‥そうか』 暫く振りに現われた黄羽様は、濁った目をしていた。 『‥済まなかった、約束を破って』 『いえ──来て下さっただけで光栄です』 本当に、来てくれた──それだけで嬉しかった。 また、会えただけで幸せだった。 『大丈夫‥でしたか‥?』 『‥ぁぁ、何とか』 『お疲れ‥のようですね』 『疲れている訳では無い。‥そうだ‥』 『?』 『草子を持って来た。君に貸してやろう』 『‥いいのですか‥?』 『ぁぁ』 あの時の黄羽様の表情は、いつになく穏やかで‥暖かかった。 ◇◇◇ 前へ |次へ |
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