《MUMEI》

その意図を読み取った五月雨が小さく頷いて
口元を動かし始めたと思えば、何かを吐き出した
「……お前、もう少し出し方ってもんがあるだろ」
五月雨の口から出てきたのは以前彼が食べてしまった地図
下へと落ちたソレは唾液に塗れていて
呆れたように呟いた時雨へ、下から出すよりはマシだろうと五月雨は威張る
そのあまりな言い草に何かを返そうとしたらしい時雨は、だが止め
皺だらけの地図を地べたへと広げる
「……地図が、消えてる?」
見てみれば、そこに記されていた筈の地図は跡形もなく消え
そこにあったのはただの白紙
「ど、どうして!?五月雨が食べちゃってたから!?」
すっかりうろたえてしまう高岡に
時雨は溜息交じりに違うを告げる
「……じゃ、どうして」
「必要なくなったからだろ」
首を傾げるばかりの高岡の手を時雨は掬いあげ
高岡は何かあるのかと、自身の手を眺め見る
途中で切れているその糸に朱が集まり始め
その全てが群れをなすと、時雨は高岡に扇子を出すよう耳元で呟いた
言われるがままにそれを取って開くと
途端に白紙となってしまった地図が、その全てを花弁へと変えていた
「これ、何?」
段々と散る量を増し、積もっては消えていく花弁
見入る高岡、その髪がやんわりと時雨の手に引かれ引き寄せられた
耳元に唇が寄せられ、聞き心地の良い低音が鳴る
「あいつらに手向ける、送り花だ」
「送り花?送り火みたいなもの?」
「ま、そんなモンだ」
見てみろ、と時雨に促され朱達へと視線を向ければ
その姿は段々と薄れ、そして朱もろとも弾けて消えていった
「これで、あの子たちは無事に逝けたかな」
何の色も無くなってしまったそこで、高岡は問わずにはいられない
「大丈夫だろ。辿れる糸と、道標があるんだから」
時雨へと向いて直れば、穏やかな声をくれる
自身の手と扇子を高岡は交互に眺めながら
「そっか、終わったんだ……」
呟く声が聞こえたと同時に、高岡の全身から力が抜けた
落ちる身体を時雨が受け止めてやれば
穏やかな寝息が聞こえる
「疲れたんじゃろうな」
高岡の寝顔を覗き込み、五月雨は笑みを含ませながらの声
時雨も同じく笑みに肩を揺らすと、高岡を横抱きに家路へと着いたのだった……

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