《MUMEI》

神部も、沢山悩みを抱えているのだろう。


「口に出すのは恥じゃないよ。」


「アンタに言ってしまった自分が恥だ。」

苛々するのか、神部はこめかみを掻き始めた。


「気丈だね。見習わなくちゃ。」


「すぐ口にするくせに、出来ないことに挑戦するなんて無謀。」


「冒険、してみないの?」


「兄さんの役だ。」


「七生は関係無いじゃないか、自分のことだろ?」


「常に比較対象が近くにあるんだ、兄さんは皆の理想だ。兄さんが全てなんだ、兄さんが上手く行くように俺はやっていくしかないんだ……」




「…………兄さん兄さん兄さん、七生がそんなに偉いのか!?ただの変態じゃないか!神部は気丈だけど臆病だね、なにかと言い訳にして逃げてんだ!七生が理想ならそれより高い理想を持って越えればいいだろ!」

頭の中でなにかが弾けて、ついつい言ってしまった。

「ごめん……俺……俺が自分に言わなきゃいけない事を神部に言ってた。」

神部に言う資格なんて無かったのに。


「口にしてみるものだってことか……、自分に足りないものがよく分かる。」

神部は意外にもあっさりと受け止めた。
毒舌が冴え渡るのかと思っていたので驚く。


「俺は前より七生との繋がりは無いよ。昔幼なじみだったくらいの認識しかない。七生の事だけ部分記憶喪失なんだ。」

安西にも言えなかったのに簡単に神部には言えてしまった。


「……晩餐であんなに騒がせておいて何も無かったと?」

鋭い指摘だ。


「記憶が無いんだ、七生のことだけ。」

記憶という単語を強調し過ぎたかもしれない。


「……上手く忘れましたね。」

全くだ。

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