《MUMEI》

◇◇◇




『あ‥っ、黄羽様!』




 そう言うと同時に、その娘は僕に駆け寄って来た。




『本当に来て下さったのですね!』




 心底嬉しそうに笑うその娘は、僕が書の道具を持っている事に気付いて物珍しそうにした。




『それが‥書を書く為の道具‥ですか?』

『ぁぁ』

『‥ゎぁ‥』

『──さて、ではまずは仮名の読みからだな』

『仮名の‥読み‥?』

『書を書くにはまず、読み方を知らなければ』

『──はい』





 あの頃、あの娘は僕に懐いて‥慕ってくれていた。




 それなのに僕は‥‥‥彼女の前に現われる事が出来なくなった。




 一度目は掻い潜ったものの、二度目は内裏に幽閉されてしまった。




 文を書いても、それが彼女の元に届く事はなかった‥。




◇◇◇

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