《MUMEI》

「───────」




 ──聞こえる。




 ‥鼓動が。




 アゲハ君の鼓動が、伝わって来る。




「──懐かしいな」

「アゲハ君‥?」

「この桜──あの頃と変わらない」




 アゲハ君は、降って来る花びらに目を細める。




「こうしてまた‥この場所に来る事になるとはな‥」

「──ごめんね、無理矢理‥」

「──いや、来て良かった」




 アゲハ君の表情は、穏やかだった。




「ここに来て、あの頃の事を思い出して‥」

「辛く‥ない?」

「いや、君の事を──うづきの事を思い出せたから」

「‥でも‥」

「辛かったのは、君に会えなかった事──君との約束を破ってしまった事だ」

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