《MUMEI》
ファントム
「心配してくれてるんだ?」
加奈子は自分より10センチ以上はあるだろう、修二の顔を見上げながら聞く。

「心配?何の?」
「またまたぁ、とぼけちゃって!」


修二って、そういうとこ素直じゃないのよねぇ…


加奈子はそう思いながら修二の脇腹辺りを小突いた。
「ニュース見たんでしょ?」
「……あぁ!もしかして吸血鬼?」
修二は今閃きましたといった感じで、手をポンッと 叩く。
「そうそう、それ!」


フフッ。照れ隠し?
本当はそれが心配で迎えに来てくれたくせに〜


「そいつなら捕まったぜ?」


捕まった…


「えぇ!!?」
「何だよ‘えぇ?’って。そんなに残念だったか?」「そうじゃなくて!」

加奈子は信じられなかった。
今朝聞いた殺人事件、それも前代未聞の殺人犯が、もうその日の夕方には捕まっている。
今までこんなスピード解決があっただろうか。

「残念な訳ないじゃん!むしろ嬉しいし!でもちょっと早過ぎない?」

捕まった犯人は本物なのか
その疑問が頭に浮かび上がる。冤罪の可能性だって十二分にあるのだ。

「まぁな。でも、犯人は本物だって。」
「どうして言い切れるの?」

「昼頃かな、自ら警察署に出頭してきたらしいよ。」「自首ってこと…?」

「うん。」
「そっか…でも良かったぁ、犯人捕まって。なんか奇人っぽかったもんね!」

安堵から、ため息混じりに加奈子は言う。
それに修二は笑った。

「ハハッ!奇人か、そりゃ吸血鬼より面白い。」
「でも、面白いのはこれからじゃない?」

「これから?何でだよ?」
「だってさ、犯人捕まったって事は、今取り調べされてる訳でしょ?奇怪な殺し方の全貌が明らかに!」

まるでテレビ番組のテロップの様な言い方で加奈子は言う。

「きっとニュース、そればっか報道されるよ〜。特番とか組まれたりして!」

楽しそうに話す加奈子とは反対に、修二は顔色一つ変えずに、加奈子を見た。

「それがさ、そうもいかないみたいなんだよ…」

修二の落ち着いたような、それでいて何故か暗いような声のトーン。

「…どういう事?」

加奈子は怪訝な顔で修二を覗き込んだ。
修二もジッと加奈子を見つめ、そしてポツリと呟いた。







「自殺した。」


「自殺?」



「そう、犯人は自首した直後に


自ら命を




絶ったんだ…」


修二は親と人差し指でL字型を作るとそれを自分のこめかみに当てた。

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