《MUMEI》 パジャマと水着火竜の目がギラギラ光ったので、静果は慌てて言葉を足した。 「あ、もちろん指一本触れないっていう言葉を信じてのことですよ」 「え、あ、うん。わかってるよ」 苦笑を隠すように水割りを飲む火竜。静果は笑顔で指差した。 「今火竜さん勘違いしたでしょ?」 「してないしてない」 「危ない」 笑顔で睨む静果。挑発か。いや違う。火竜は慎重になった。変なこと言ってまた怒らせたら大変だ。 「シャワー浴びる?」 静果はドキッとした。 「はい」 たかがシャワー。されどシャワー。恋人でもない男性のマンションに泊まること自体無謀なのに、シャワーを浴びるというのは冒険だ。 「静果チャン、裸で寝るわけにはいかないから、パジャマがあるよ」 「パジャマ?」 「あれ、もしかして全裸派?」 「違います違います。パジャマ派です」 火竜はレモンとピンクとグリーンのパジャマを出した。 「撮影用に用意したんだ。あげるよ」 「撮影用なんでしょ?」 「大丈夫。たくさんあるから」 「火竜さん、パジャマニアじゃないですよね?」 「ハハハ。違うよ。安心しな。まあ、パジャマの上だけはヤバいけどな」 「ヤらしい」 また笑顔で睨む。火竜の中では十分挑発行為で、押し倒されても文句を言えないレベルだが、最近の若い子は違う。 挑発なんて意識は全くなく、単なる無頓着という場合のほうが多い。 ランジェリーファッションや「それ水着だろ?」という格好で街を歩くのも、涼しいから、かわいいからと理由で、挑発と考えるのは男の勘違いである。 「考えごとですか?」 「おお、いやいやいや、何も考えてねえよ」 慌て過ぎだ。 静果は笑みを浮かべると、バスルームに入った。 「ふう」 火竜は額に汗を滲ませ、ソファにすわった。 「何翻弄されてんだオレは。情けねえ」 火竜も893ジャージに着替えた。 静果が出てきた。レモンイエローのパジャマを着ている。かわい過ぎる。ハッキリ言ってタイプだ。惚れたかもしれない。 「似合うよパジャマ。かわいいよ」 「あ、どーも」 照れる静果。火竜は水割りを勧めた。 「飲みな」 「じゃあ、あと一杯だけ」 濡れた長い黒髪がたまらなくセクシー。火竜は目の前にいるビーナスを見つめていたい気持ちを抑え、水割りを飲みほした。 「火竜さん」 「ん?」 「ありがとうございます」 「いいよ」 静果は水割りを一口飲むと、真顔で言った。 「いろいろ考えたんですけど」 「何?」 「あたし、女優やってもいいですよ」 火竜は一瞬硬直した。 「無理しなくていいよ」 「実は、興味あったりして」静果が笑う。 「よし。じゃあ、ヒロインやってもらうよ」 「嘘!」静果は慌てた。「エステティシャンじゃなくて?」 「甘いよ、水着ギャルだよ」 「嘘、火竜さんSですか?」 「何言ってんだよ?」 静果は赤面して恥ずかしがるが、やる気十分だ。火竜は圧倒されていた。 静果が服とパジャマを持って立ち上がる。 「ご馳走さまでした」 グラスをしまおうとする静果を制し、火竜は部屋を差した。 「そこが来客用だよ。そこ好きに使っていいよ」 「ありがとうございます」 静果はドアを開けて部屋の中に入った。彼女はドアを閉める前に顔だけ出して、ソファにいる火竜に言う。 「お休みなさい」 「おやすみ」 「火竜さんって、いい声してますね」 「え?」 「火竜さんの声、好きですよ」 それだけ言うと、ドアを閉めた。 「声?」火竜の顔が赤い。「嬉しいことを」 参った。恋心の芽生えは否定できない。火竜はもう一杯水割りをつくり、一気に飲みほした。 翌日。 あのエステティシャン役4人がスタジオにいた。静果は緊張した。決定的な喧嘩をしなくて良かったと思った。 水着姿。自信がなければ断っている。更衣室で白のビキニに着替えると、ベッドの前まで来た。 火竜は息を呑む。スリムでセクシー。静果に魅了された。 前へ |次へ |
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