《MUMEI》

味方からの歓喜の雄叫び、敵からの落胆ため息が聞こえる最中、俺はいつの間にか観客席に向かって声を張り上げていた。


勿論今日は練習試合。


観客っつったって、倶楽部に所属している子の親ぐらいなもんだ。


なのに……。


誰もいない観客席に向かって怒鳴っていた。


自分が得点した喜びを、味方である一希達に報告するでも無く……。


真っ先に観客席に向かっていた。


なんだ?


俺は誰に対して言っていたんだ?



その瞬間、脳裏に蓮翔ちゃんと颯ちゃんの姿が霞む。


ゆっくりと頭を左右に振った。


ちゃう。


お前等は出て来んでえぇねん。


いや、出て来るな!!


お前等は邪魔者や!


俺の夢を阻む邪魔者なんや!!


出て行け!!


くっきりと浮かんできた彼等の顔が……跡形も無く消え去った。


「そうだ。

それでえぇんや。

……えぇんや!!」


頬に生暖かいものを感じた。


手を当てて見ると、手はぐっしょりと濡れた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫