《MUMEI》
思い出の時計
《さすがにすぐに意味がわかったな》


(だって…)


そこに、刻まれた文字に


二つのイニシャルに


俺の心当たりは一つしかなかった。


『N to S』


『也祐から忍へ』


《昔、誕生日に頂いた》

「…いいのか? そんな、大切な物を、俺に」


俺の声は震えていた。


《それ以外にも、頂いた物はある》

「でも…」


旦那様から頂いた物が増える事は、この先


一生、無い。


《…お前に贈る最後のプレゼントだ》


(確かに、そうだけど)


来年の俺の誕生日の前に、俺は高校を卒業し、就職する。


…忍とは、その時点で縁が切れる。


(だけど…)


何も言えない俺に、忍は優しく告げた。


《愛してる、祐也》


電話は、そこで切れた。


(…何考えてるかわからないヤツだな、嫌いな俺に、こんな大切な物を渡して…

嫌いな俺に、嘘でも『愛してる』だなんて)


時計を見つめて、俺はため息をついた。


そんな俺には、もう一つ疑問があったが、考えない事にした。


(忍の『愛してる』に聞き覚えがあるなんて、あり得ないし)

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