《MUMEI》

「なんかおかしいぞ、お前……。」


一希が俺の表情を伺おうと覗き込む。


俺はそれを避けるように、思い切り明後日の方向を向いた。


そしてため息をつく。


「はあ……。

ほんま一希には敵わんなぁ。」


「へ?

今なんて?」


「なんもない。

とにかく、大丈夫やけん。」


わざと右手を一希の背中へ回して、力強くバシバシと叩く。


「いて、いてて、いてぇよ!!」


泣き笑いするかのような彼の表情。


これ以上は悟られたくないと思い、速足で元の位置へ戻った。


「ほんま大丈夫やから。

一希はゴールの心配だけしとけばえぇねん。

ま、ゴールに来ることは無いけどな。」


元の位置へ戻る道中、振り返り彼にウインクする。


「しっかり頼むぜ。」


彼はすっかり安心仕切った様子だった。


空中でお互い手を合わせて、一希はゴールへと戻って行く。


「両者、準備はいいかぁ?」


監督の声が響いた。

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