《MUMEI》 「斎藤…………」 認識まで時間を要した。 水の粒が肌を弾いている。白い肌があまりに儚い。 「………消えてしまいそうに綺麗だ」 口に出してしまっていた。 アラタの虚ろな瞳が樹を睨み付ける。 綺麗と言ってしまい自分が賎しい存在に思えて、恥ずかしくなった。 「………ごめんっ……」 慌てて自転車に乗る。 アラタは自転車の車輪にビニール傘を挟めた。 バランスを崩し、樹は下り坂を転がっていく。 途中、自転車がストッパになって止まれた。 ゆったりとした歩調でアラタは近付いて来た。 「……お前が消えろ」 樹の腹を蹴る。 「………ぐぁっ」 まだ完治していない身体が電流でも走ったように震えた。 「お腹押したら鳴る玩具みたい。」 樹の角度からはアラタの顔は影になってよく解らない。 前へ |次へ |
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