《MUMEI》

「今日は “化野アヅサ”じゃないのか?」


「………………誰にも、言ってないのに」


「……信じない。
お前が、アヅサを名乗るな!」
アラタの足に力が篭る。



「……アア゛ッ、」
樹の体が魚のように跳ね上がる。

アラタは折り畳み傘を両手に持ち直す。





「俺はお前を

殺したくて 殺したくて


堪らないのに!」
アラタの折れそうな体が樹を跨いだ。傘で樹の肩を肘を腹を腿を突く。


樹はされるがままに呻く。

鋭利な傘の先が頬を何度も掠めながら往復した。

耳障りなコンクリートの擦れる音が鳴る。




「……分からない、
けど、

斎藤が 苦しいなら

謝るから………」





「謝るだって?

今ここで殺そうか!


アヅサを大塚の名前で貶るんじゃないよ!」


     「!」
傘が顔目掛けて向かってくる。
殺される、そんな感覚が
樹の目を閉じさせた。

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