《MUMEI》

「ねぇ〜パパと会ってみたいの〜武ぃ!」
「行けるか分かんねぇよ…」

一応携帯の番号は知ってるけど、掛けた事は無かったその親父の携帯番号画面を覚悟が決まらずじーっと眺めていた。

「武ぃ〜」
「うん…」

俺がなかなか決めきらないでいると、横から見ていたかなたがいつの間にか通話ボタンを勝手に押していた。

「おっ、お前はぁ!」
「何!?ほら電話電話」
「えっ、ぁ…ι」

何度目かのコールの後、久しぶりに聞く、あの低い声が聞こえてきた。

『…武か』

不機嫌そうな声に躊躇しつつ、かなたに促され話を切り出した。

「あ…いきなりなんだけどよ…なぁ…そっち行っていいか?」
『いいですか、だろうが…』
「いいいかっつってんだろ!…親父に会いてぇって言ってる奴が居るんだよ」
『同業者はお断りだ』
「違げぇよあの…こ…」

恋人と言おうとしていたら、気づいたかなたが携帯から漏れてくる声を聞こうと俺にくっついていた。

『何だ…』
「会わせたい奴が居るから…いいだろ」

携帯を切るとかなたが俺をじっと見つめてきた。

「何て言ってたの?」
「来てもいいってよ」

そう聞くとかなたは飛び跳ねて喜んでいた。

俺の親父と会うのに何でそんなに喜べるんだよ…。



「これ、武パパにお土産ね///」

ウサギの砂糖菓子の乗ったクラシックチョコレートケーキの箱を抱えて、武と一緒にパパの居るマンションまでの道を歩いていた。

「俺が選んだんだよ あ〜 武パパどんな人かなぁ〜携帯から聞こえてた声、すごく低くくて…ちょっと武みたいだったね!!」
「似てる…か…」

子供の頃、俺の世話をしてくれていた親父の舎弟に『そっくりだな、チビ兄貴』と言われていたっけな。


「親父にそんな甘いモン持ってってもな…」

少なくとも子供の頃でも親父がケーキなんてのを買ってきた事は無かったけど…。

俺の誕生日に舎弟の奴が買ってきて、そいつと二人だけで誕生日、という奇妙なものもあったっけな。

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