《MUMEI》

扉が開く。
急いで音量を下げ、パソコンから離れた。


「あ……安西……」

驚きのあまりに腰抜かした。


「先輩、置いていってごめんなさい」

自然に抱き起こしてくれる、震えが止まるように安西にしがみついた。


「き、きすして、」

唇も震えるから、どうにかして止めたい。
怖いときにそうしてもらった、気がする。


「俺でいいんですか?」


「いい、キモチ良くしてくれれば いい……!」

縋るように、安西に懇願した。


「せんぱ……」

開きかかった安西の唇に自分の唇を押し付ける。
酷い疾患だ。
俺は舌が麻痺したように、歯の裏側で停滞している。
安西は恐る恐る、俺の背中に指を置き、唇を動かした。
俺の病気に懸命に応えてくれようとしていた。


「安西……、もっと……」

思いの外、自分のはしたなさに愕然たる感覚を覚えながら、唾液が溜まってゆくのを味わった。

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