《MUMEI》
雛子。
「雛子か、あの子…女の子だったのか〜」
「……」
「まさかお前、さっそく手ぇとか出してないだろうな」
「出すかよ…チビだぜ」


どういうワケだか朝の食卓にあいつがワンピースを着て現れ、皆の視線を集めながら俺の隣に座り、ニコニコと笑っていた。

「お前どうしたんだよ…それ」
「スカート…やっぱり変…かな?」
「いや、別に…」

似合って無いワケじゃないけど、可愛いワンピース姿に対照的な、その乱暴に切られた短い髪が更に目立ってしまっていた。

でも、雛子の笑顔は昨日までのとは違っていたんで、ちょっとホッとした。



「雛子ね、今日はお勉強なんだって、りゅ…お兄ちゃんは///」
「龍侍でいいよ、今日は仕事だ」

俺の事、どう呼んで良いか分からずに膝の上で指をクルクルしていたから”龍侍でいい”なんて言ってみたものの…。

「りゅう…じ///…お仕事がんばってね///」
「お…おぅ///」

今までその名前で呼ばれた事は無いんで、呼ばれたら呼ばれたで…何かこそばゆい。

「お前らやっぱり…」
「デキてねぇよ、保護者だ…俺は」

そう言うと雛子はニコッと笑っていたが、その表情は何だかちょっと寂しげだった。




「お帰りなさい、りゅうじお兄ちゃん///…お風呂にする?」

バイトから帰ると、やっぱりチビ達と一緒に出迎えに来ていて、その雛子の腕にはギュッと俺の部屋着が握られていた。



食事が終わって一人部屋に引っ込むと、雛がついてくるようになった。

まるで本当に”雛”だな。

「りゅうじ…お兄ちゃん、あのね…ヒナお勉強頑張ったの、漢字いっぱい書けるよ」
「そっか、でも毎日書かねぇと忘れちまうぞ」
「うん、それでね…龍侍って漢字も練習したんだよ///」

雛がニコニコしながら漢字のノートを捲って俺に得意げにそのページを見せてきて、そのページ一面に俺の名前がびっちり書いてあった…。

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