《MUMEI》

「…龍がやたらとでけぇな…漢字はバランスだぞ」
「うん、難しいのね」
「コレ…俺か?」

名前が書いてあったノートの端に、髪の長い男か女か分からないような可愛いマンガの絵が描かれていた。

「うん///」

長いと後ろで結びやすいんで伸ばしてたけど…やっぱ切った方がいいかな…。

「女みたいなのか…俺って」

後ろで結んでいた髪をほどくと、クシャクシャと乱暴に手で梳いた。

「ううん、綺麗だよ…その…かっこいい///」

雛はそう言うと、開いていたノートを閉じて俺の隣に来ると、俺の髪に恐る恐る手を伸ばしてきて、そのか細い指で撫でてきた。

「長い…いいな///」

やっぱり、自分の短い髪の毛を気にしてたのか…女の子だもんな。

でも、どうしてこんな事になったんだろうな…。

やっぱり虐待なのか…ココに入ってくる奴はだいたいそんな理由からだが…。



俺は生まれた頃から”親”なんてものを知らなかった。

ココの、普通の家庭とは明らかに違う病院と学校の中間のような建物が俺の”家庭”だった。

無機質な風景に、無機質な部屋。

それに、ココに居る大人は自分の為に俺の面倒を見るような奴ばかりだった。



雛はさっきまで俺を怖がりながら触っていたが、今は嬉しそうに俺の頭を撫でていた。

そういえば、こんなに人に頭を撫でられるのなんて初めてだな…。

と、雛に頭を撫でられながらそう思った。


「雛……」

その小さな腰の辺りに腕を廻すと雛の身体が一瞬ビクッとした。

「りゅう…お兄ちゃん///」

雛が今にも消えそうな小さな声で俺の名前をつぶやくと、そのまま俺に身を委ね、まるで小さな子供が甘えてくるように抱きついてきた。

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