《MUMEI》

顔が判からないように一人一人、深く布を頭から被り円卓を囲んだ。円卓の中心が窪んでいて中には頭蓋骨を模造した装飾品が嵌まって或る。
独特の香を焚き、充満してゆく部屋の雰囲気に呑まれてしまいそうになり、林太郎は頭を振る。

「降霊術師が参りました。」

誉らしき人影が扉を開くと二人の布を被った人間が佇んで、一人はもう一人より比較的小柄で、手を引かれながら部屋に足を踏み入れる。
小柄な方は猿轡を噛まされていた。体中には円卓に描かれたものと同じ文字が記載されている。
指先まで黒く文字で埋められていた。

黒い布を被った小柄な方は見れば見る程まだあどけなさを残した子供にも見えてきた。
其の後ろで呪文のようなものをもう一方が唱えると子供に見えていた小柄な姿から忽ち、落ち着いた貴婦人のような立ち姿となる。


「……雨が、五月蝿いわ。」

外は雨で、僅かに窓を叩く。
五月蝿いのは外では無く、彼女の主音声に重なる別の雑音だ。
高音と低音が被さる発声は、人間の出せる音ではない。
轡を噛んでいる方では無く、手を引いていた方が主音声と成っている。


「手を離しては為りません霊がさ迷います。生者の声を二人以上で重ねるのも為りません、呪いを受けます。其れでは、始めましょうか。」

呪文を唱えていた女は、誉に向き直り、此方に質問を求めている。
林太郎は、ゆっくりと手を挙げた。


「貴方は、健やかでしたか。」

実に、退屈な質問を投げるように心掛けた、本心を見せない為だ。


「病弱でした。」

直ぐさま返事が返ってきた。


「病で倒れたのですね。」

林太郎の回答に、嗤い聲が響き渡る。


「では、此の痣はどう説明出来ましょう。」

轡を噛んでいた方が首元を見せると、絞められた紐の痕が付いていた。

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