《MUMEI》 「早く渡せ。」 冷淡な口調でアラタの肩を抱く樹の手を払われた。 外には車が横付けされていて、直ぐにでも連れて帰れるような仕度が出来ている。 「鬼火が死んだ。殺された。」 アラタは冷淡な声を更に凍らせるように返した。 「……馬鹿な。」 「証人ならこいつがいる。アリバイが欲しい。俺達は何者かに人殺しに仕立てあげられた。」 明確なアラタの指摘に樹の気も次第に引き締まれてゆく。 「信用出来ない。」 当たり前だ、と樹は頷きそうになる。 「それは俺が決める、そうだ。呼べば良い、そろそろ火葬場の日だろう。」 樹はアラタから信頼を得たことが、誇りに思えた。 「火葬場に、正気ですか?」 「この俺が一度だってまともだったか?」 アラタは一人で上手く歩けないまでも、いつもの調子には十分に取り戻せていた。 「……明日、午前三時白縫の家だ。」 アラタを引き取りに来た男は侮蔑の視線で「火葬場」への招待を受けた。 「あの……、怪我をしてるので……」 乱雑にアラタの肩を抱く男に不快感を覚え、樹の口は勝手に動いていた。 「貴様のせいで白縫が……」 樹に食ってかかって来た。 「それは火葬で……犬、お前は灰になるかも。」 アラタの抑揚の無い声で火葬という言葉にタナトスを想像させられる。 前へ |次へ |
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