《MUMEI》
亀は気高く誇り高い生き物にございますゆえ
ふう、三里と少しを歩いたのですが些か甲羅が重くて不便にございます。
やはり、このように重いと歩も遅くなってしまいますが何とぞお許しを。

さて、しばらく歩きましたが兎は見当たりませんね。
やはり、私の考えが正しかったのでしょうか?
…早合点はよしておきましょう。
足元をすくわれかねません。
四里の塚が見えました。
上手くカムフラージュしていますが、よく見れば判りますね。
しかし、トリモチにどうやって兎をおびき寄せましょうか?

ああ、そうです。
先人ならぬ先兎に智恵をお借りしましょう。
木陰で一休みするとしますか。
寝入ってはいけませんが、まどろむ程度なら大丈夫でしょう。
では、少々お待ちください。

む…
寝入ったツモりはありませんでしたが、少々深く落ちてしまったようですが、案外事は上手くいくようです。
兎がトリモチの上で助けを呼んでいるではありませんか。
私も鬼ではありません、亀ですから。
亀とは気高く誇り高い生き物ではありますが、それと同時に慈悲深い生き物でもあります。

少し、声をかけて差し上げましょう。

「もし、どうなさいました?」

『これは亀殿! お助け下さいませ。トリモチがくっついて身動きが取れなくなったのです。』

「なんとまあ…
しかし、私には貴方様をお助けする力を持ち合わせておりません。
助けて差し上げたいのは山々ですが、想いばかりで事が成りましょうか?
いえ、成りません。
これは不運が重なったと諦めなさってください。
仕方ない、と割り切る事も救いでございます。」

『な、そのような御無体な事をおっしゃられず。
何とぞ、若輩の某(ソレガシ)をお助け下さい。
助けて戴いた折りには、亀殿の申し付けを一つだけ甘んじてお受け致します。』

「左様ですか…
兎殿にも誇りはあるでしょうに、それを捨て去ってでも助かりたいと申すのであれば、お応えしなければ私は同族の恥さらしとなるでしょう。
しかし、貴方様の口から出た詞が嘘八百出ないことを約束していただきたい。」

『もちろんです。
兎は冗談を言っても嘘はつきません。』

「たしかに、お受け取り致しました。
では先に申し付けをさせていただきます。
今ここで自らの負けを認め、土下座をしながら地面に額を擦り付けてください。
ああ、それと土下座をしている最中には『若輩の身でありながら愚かにも亀殿に一騎打ちを挑んだ兎を許して下さい』と三回叫んでいただきますよ。」

『無礼な!
そのような条件を飲むほど、某は落ちぶれてはおらぬわ!』

「おや、このような場面で約束を蔑(ナイガシ)ろにしますか。
ふふっ、兎一族とは冗談も嘘も言うではありませんか。
しかし、私とて貴方様をどうしても助けなければならない義理はございません。
そこで、身が朽ちるまで景観を楽しむとよいでしょう。
では、私はかけっこの途中ですのでこれで。」

『あ、いや待たれよ。
申し訳ございません、つい頭に血が上り悪態をついたこと赦していただきたい。
喜んで亀殿の申し付けをお受け致します。
ですので、ここから助けて下さい。』

「ふむ、仕方ないでしょう。
見殺しにしたとあらば、寝覚めも悪いものでございますから。」

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