《MUMEI》

「ただいま。」


クロが恭介を送り届けた頃まで、


時間は遡る。


帰宅した恭介は、


真っ先に自分の部屋へと向かう。


「ふぅ…。」


ため息と共に、


ベッドに倒れこむ。


「恭介?


帰ったの?


ご飯春奈が帰ってからでもいい?」


下から母の呼ぶ声が聞こえる。


「別にい〜よ!!」


返事をする恭介。


「ふぅ…。」


直後に、


またため息が出る。


(やべ〜眠い。


つ〜か…


体痛てぇ…。


眠みぃ〜し。


体痛てぇ〜し。)


「ふぅ…。」


(なんだかな…
でも…)


「…勝ったんだ。」


体の痛みが、


試合を思い出させる。


後半15分。


恭介は1点もゴールを許さなかった。


強豪相手にそんな経験をしたのは初めてだった。


「勝ったんだ…。」


疲労と共に訪れる実感。


睡魔が気持ち良くなってきた。


痛みさえ心地よく思えた。


このまま眠ろうかとも考えたその時、


「ただいま。」


姉、


春奈が帰宅した。

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