《MUMEI》
甘い夜
夜。
静果はシャワーを浴びると、ピンクのパジャマを着てリビングのソファにすわった。
火竜久一郎は水割りを飲みながら、パソコンを見ている。火竜はいつもの赤い組員ジャージだ。
火竜は静果を見ると、笑顔で言った。
「それは反則だろう」
静果もはにかむ。
「ピンクはヤバいかな。グリーンにする?」
「いいよピンクで。凄くかわいいよ」
「怖い」
火竜はまたパソコンを見た。キーを操作しながら静果に聞く。
「水割り飲む?」
「しびれ薬が入ってなければ」
「酔い潰すなら日本酒だよ。回るの早いから。足に来るよ」
「危ない」
火竜は薄めの水割りをつくり、静果に渡した。
「ありがとうございます。いただきます」
静果は一気に半分飲むと、聞いた。
「仕事熱心ですね」
「オレはビジネス命だから。あっ、命なんて言わないか今」
「結婚は?」
いきなりの質問。火竜は顔を上げて笑顔の静果を見た。
「オレを好きという物好きがいればな」
「いたらどうする?」
「そのときに考える」
「火竜さん理想高そう」
「そんなことないよ。でもオレはルックスよりハート重視だから」
「嘘ばっかし」
やけに絡む。火竜は乗ってきた。
「嘘じゃないよ。どんなに美人でも性格が悪かったらダメだよ」
「へえ」
再びパソコンを見る火竜。静果は少し不満で、火竜の隣に移動した。
「何さっきから熱心に見てるの?」
静果がパソコンの画面を覗くと、動画サイトだった。
「オレの発想を超える作品はないか、たまに探すんだ」
「ありました?」
「ないよ」
「ほう…」
凄い自信。静果は感心した。
「娘の水浴び?」
火竜は気になりクリック。すると、子象が水浴びしている動画だった。
「喧嘩売ってんのか?」
「アハハハ!」
今度は水着姿の美女が磔にされているイラスト。その下に「許しますか?」「拷問しますか?」との質問。
「火竜さんはどっち選ぶの?」
「もちろんこっちだよ」
火竜は拷問するほうをクリックした。
「最低」
「違うよ、ビジネスの一端だ」
しかし画面中央には「登録完了。以下の振込先に38000円を振り込んでください」と出た。
「何だ、クリック詐欺かよ」
また画面を変える。静果は目を丸くして聞いた。
「大丈夫なの?」
「登録っていうのは、住所や名前を空白に入れていく作業があるだろ。ワンクリックでこっちのアドレスがわかるわけない。まあわかっても振込を強要したら犯罪になる」
まだ半信半疑の静果に火竜は説明した。
「こういうの見ると怖くなって、払っちゃう人間がいるんだよ。怪しいサイト見たっていう罪悪感もあるし」
「火竜さんは罪悪感ないの?」
「ないよ」即答。
静果は呆れ顔で水割りを飲みほした。
「おかわりは?」
「いい。無事なうちに寝ます」
立ち上がりかける静果に、火竜が言う。
「静果チャン」
「静果でいいですよ」
この一言は男にとって嬉しい。
「静果」
「何ですか?」
火竜は愛らしい静果の顔を見つめた。
「怒っちゃダメだよ」
「大丈夫ですよ、もう怒らないから」
笑う静果。火竜は慎重に言葉を選んだ。
「これはオレの提案だから。君も反対なら反対しなきゃダメだよ」
「はい」
静果は何だろうと少し緊張した。
「ここに、住んじゃえ…なんて言ったら怒るよな」
静果は硬直した。火竜は慌てて言い直した。
「嘘だよ。アパート探しに行こう。明日にでも」
しかし静果は笑顔で聞いた。
「居候?」
「同居だよ。同棲じゃないよ。静果は脚本家だから、打ち合わせするのに好都合だと思って」
静果は俯いて考える。故郷の親には言えない行動だが、悪い話ではないと思った。
「襲わないと約束できますか?」
「人を人喰い虎みたいに言うもんじゃないよ」
「ハハハ」
静果は立ち上がると部屋に向かった。
「お休みなさい」
「おやすみ」
彼女は返事をせずに部屋に入る。火竜はOKと判断した。

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