《MUMEI》 教室に着くと、そこには既に優子がいた。 優子は不安げな顔で私の方を見つめていた。 「ごめん…冷静になって考えてみたら迷惑なことしてた。」 めずらしく謝る優子を私は許さないわけにはいかない。 なんか可愛く見えてくるし…って変態か、私は。 「まぁ、私もちょっとひどく扱っちゃったし…いいよ全然。」 そう言うと、優子の顔が一気に普段どおりに戻る。 あの計算高そうな顔に…。 「あ、だよね。あんたも悪いし。」 急に上から目線になる優子にいらっとくる。 私は、優子の足を思いっきり踏む。 優子は言葉にならないほどの奇声を上げた。 「そういえば、昨日はちゃんと掃除できた?」 「いや、ふつうにしたけど?」 「徳山とは話した?」 「なんか、話しかけられた感じで。ちょっとムカついたけど。」 優子は眉をひそめる。 「ん?それっていいのか?ん?…いいか。まぁ…まぁ話せたんなら良かったわ。」 私の肩を優子が軽く叩く。 「昨日は何買ってもらったの?」 昨日の夜から気になっていたことを聞く。 なんだかんだで、カモの話を毎回楽しみにして聞いてるし、それに優子の生活に密かな憧れが無くは無かった。 「ん?昨日?えっとね、高級なイタリアンの店で食べて…あとは情報収集。」 「情報収集?」 「そ、主に成田の。ちょうどそいつが4組だったから丁度よくってね。」 成田のっていうことは… 「もしかして、好きなの?」 優子は怪訝そうに私を睨む。 「は?成田?有り得ないでしょ。てか、これは他人のためにやってるんですけど。」 「誰のよ?」 「それは…」 優子が言いかけたとき、背後から嫌な気配を感じる。 「俺、情報収集してやってもいいけど?」 案の上、徳山だった。 この人は、背後からやってくることしかできないのだろうか。 「あー、じゃあ徳山にも任せるわ。」 「おうっ。…何?田中やっぱり拓也のこと好きなわけ?」 急に話題を振られて、私はびびった。 「なんで私になるかな…。」 「そーよ、成田が気になるのは私のほうだから。」 そう言って、優子は徳山にウインクをした。 徳山はなぜかそれを見て、嫌がらせで私の頭をぐしゃぐしゃに撫でた後、男子の中に消えて行った。 私は、頭にスプレーをふりかける。 「てか、やっぱり優子好きなの?」 そう言った瞬間、私の頭に拳骨が入る。 「ちっがうわよっ。あんた、ほんと鈍感すぎ。あんたのためよ。」 「は?私?」 「そうよっ。…もーいいや。どーせ分かってくれなさそうだし。いずれ話すわ。」 優子は席を立ち上がると、教室を出た。 全然分からなかった。 何がどうなっているのか。 ただ残るのは優子の大きな声の余韻だけ。 前へ |次へ |
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