《MUMEI》

「さてと、そろそろ出掛けるか。」
腰をあげて二人に言った。

「……え?」
しかし、リンはまるで聞いていないとばかりに驚く。

「えっ?出掛けるって?外に?」

「ああ、それがどうかしたか?」

「どうかするわよ!なんで安全なここを手放して、ゾンビだらけの外に出掛けるのよ!」

その言葉を聞いた時、オレの意識は変質した。

「…安全?」
ここが?

リンは、甘い。甘すぎる。

「ここは安全じゃない。狭い室内、出口はひとつ、窓を入れても3つ、侵入者に対して満足に逃げることも出来ない。」

人の根本的に邪悪な部分を知らない。

「そして、装備。こんなものでは身を守ることすら危うい。相手を行動不能にすることなど不可能だ。」

殺意にぎらつく双眼を知らない。

「ここにいては3日と持たない。特に日が暮れた場合、何も身動きが取れなくなる。」

憎悪に満ちた息遣いを知らない。

「ここは、安全じゃない。」

狂気に歪んだ口元を知らない。

「こっ、ここにゾンビが来られるわけないじゃ
「ゾンビだけじゃない。」
狼狽えるリンに間髪をいれずに話す。

「混乱に乗じて略奪を行う人間がいる。疑心暗鬼になり誰彼構わず攻撃する人間がいる。抑圧されていた狂気を解放する人間がいる。」

彼らの肉食動物めいた動きを知らない。

「だからオレはここを離れるんだ。」

…それを自らが放つ時が来ることを知らない。

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